アメリカのリーディング・メソッド

音楽ライター山本美芽が、アメリカ在住の5年間に学んだリーディングメソッドについて綴ります。

クラスサイズ削減は低学年で行うと効果的。それは授業がよくわかり、ふざけが減るから

日本にいったとき買っておいた

アメリカの教育改革

アメリカの教育改革

という本をめくっていたら、先日触れた「クラスサイズ削減プログラム」についての話が書いてありました。

アメリカでリーディングの話をするときには、このクラスサイズ削減の話は重要な要素になってきます。アメリカの公立小学校では、リーディングの能力を向上させるために、莫大な人件費を増やして、少人数クラスを実現させてきたからです。

まず、1998年にクリントン大統領が、小学校の少人数クラス化に関する提案をしました。ここから話は始まります。

なぜ、クラスサイズを縮小しなければならないのか。

同書p51より引用します。これは、アメリカ教育省の報告書、「クラスサイズ縮小−われわれは何を知っているか」(Rreducing Class SIze:What do we know?)を西村和雄・戸瀬信之の編訳者が訳したものです。


●少人数クラスは低学年において生徒の成績を向上させる。生徒の学業成績の及ぼす少人数クラスの顕著な効果は、クラスの大きさが15人から20人の生徒数レベルまで縮小してはじめて現れる。

●実質生徒数20人以上のクラスを、生徒数20人以下のクラスにすると、平均的生徒の成績が、真ん中あたりから上位40パーセントの位置に上昇する。障害を持つ生徒や、マイノリティーの生徒には、より大きな効果が見られる。

●生徒、教員、生徒の親は、少人数クラス化が、クラス活動の質に対して良い影響をもたらしたと報告している。

まず20人以下という数字についての根拠ですが、p55に

「ファーグソン(Ferguson)は、クラスサイズの測定法として、1
年生から7年生において、生徒たち教員数の比率が18:1を超えると学区内の生徒の成績が下がることを発見した」

というのがあります。

そして、なぜ少人数クラスが違いを生むのかというディスカッションに、面白いことが書いてありました。

●クラスの雰囲気が良くなる
●生徒一人ひとりに注意がよく払われる
●教員が異なった指導法や宿題を柔軟に扱えるようになった
●教員が仕事をするためのより広い教室空間で仕事をしていると感じるようになった

(p64)以上引用

まあ、それはそうですよね。人数が少ないほうが、いろんな意味でひとりひとりが自分らしさを発揮できるし、そもそも混んでない教室のほうが落ち着くし。先生を1対1でやりとりできる時間が1日に1回でもあると、ほっとできるし。

いま私は、英語の勉強は家庭教師の先生とやっているので、わからないことはなんでもかんでも質問しやすいですけど、市がやっているESLの教室に行っていたときは、質問ひとつするのにも、ずいぶん時間がかかったなあ。

いつもの先生のかわりにきた先生が連発する「オーキードーキー?」っていう言葉が、実は「OK?」のカウボーイ風な言い方だったんですが、それがわからなくて、2時間ぐらいずっと考えていたことがあるぐらい。

よくわからないことが、そのままになってしまう。そんな状況は、クラスの人数と比例しているのかもしれません。

●クラスの大きさを小さくすることそのものが、クラスの状況を変える。それは、互いに気を散らす生徒の数も少ないからである。少人数クラスでは各生徒が教員から関心を払ってもらえ、他の人々が聞いている間により多く話す機会をもつ。同様に、多人数クラスと同じレベルの騒音、雑音を発生するためには、各生徒が大きな声を出さなければならないのだ。
(p65)以上引用

おおーわかるわかる。教室で40人生徒が集まったときにうるさかったこと。あれが20人だったら、ふざけ、けんかが始まりにくいだろうし、始まったとしても、注意してやめさせるのもずっと簡単でしょう。

その結果、ふざけないようにあれこれ注意している時間が減って、勉強に割く時間が長くなるんだろうなあ。

●少人数クラスの教師は規律上の問題に直面することが少なく、教科内容についてよりよく把握することができて、生徒と一対位置の触れ合いが取れ、生徒の進歩をよりよく把握できることが示されている(p91)

また、少人数クラスは、高学年ではなく、低学年で行うことに最大の効果がありそうです。

●大多数の調査の意見では、低学年における少人数クラスが、より高い成績につながることを示す。研究者たちは、4年生から12年生までの少人数クラスの効果が明白なものといえるかについて、より懐疑的である。(p62)

アメリカのリーディングメソッドでは、結局、一斉授業じゃなくて、小さいグループに分けて、1人1人にきめ細かい指導をしているところに、大きなポイントがあります。

たとえば、うちの娘が1年生の最初には1分間に単語がいくつ読めて、1年生が終わる前にはそれがどれぐらい速くなったか、先生は1人1人と1対1に例文を読ませ、そのスピードをいちいち計ってそれをレポートカードに書いてくれています。

リーディングレベルも、1年生の22人のクラスの中で5つに分かれていて、グループごとに違う本を与えられています。同じ1年生でも、いちばん上のクラスは、マジックツリーハウスをがんがん読んでいて、すごいねーといつも娘と話していました。

ARクイズに代表される、内容理解についてもこだわる点。読んで、ほんとうにちゃんと意味がわかって、それでほんとうに読書がなされたことになる。そこまでできているか、ひとりひとりについて確認していく仕組みがあります。

自分にぴったり合った本を次から次へと読む。一斉授業で、みんなでスイミーを読みましたという体験も、それはそれでかけがえがないものですが、あくまでも自分の読書体験というもののほうが、頭の基盤になるでしょう。

そうした個人的な自分の頭のなかの本棚づくりについて、日本にいたら、学校からのフォローは受けられないと思うのですが、アメリカでは、そこに強力なサポートを行っている。その環境として、低学年の少人数クラスがある。ということですね。

私自身、家庭教師の先生を探して「会話ができないから会話をお願いしたい」とお願いしたのです。でも、ミセス・ギャラントは本を持ってきて「リーディングをしましょう」ということになり、最初は「読むほうは結構日本でもやったんだけどなあ」と思っていました。

でも、とんでもない、読んだ本の量は、ぜんぜん足りなかったわけです。いまだにぜんぜん足りない。そして、読んだ本について話していると、世間話をしているだけでは決して出てこない語彙に、いやおうなく直面していきます。

おそらく、こうして先生と一緒に1対1で本を読んで、語彙や内容を一緒に学び、本の内容について一緒に考えていくというのは、ある意味、アメリカの小学校の先生が理想とする学習の形なんだろうなあと感じています。

それを教室のなかで、なんとか実現するために、

●低学年で20人程度の少人数クラスにする(残念ながら今年あたりからもう不可能になってきたみたいですけど)

●能力別グループをつくり、能力に合った本を次から次へと読ませる

●宿題として1日20分家に持ち帰って本を音読させる

●コンプリヘンションのクイズをして内容確認

●週に1度は図書館で好きな本を借りさせる

というようなことをやっているわけですね。